降りかかる木剣のあらしに、緑色の瞳の少年はなんとか堪えていた。上から来る攻撃を横へと流し、そのまま反対から来る攻撃にも対応する。防御するのが精一杯で、青年は自ら攻撃ができない状態だった。
先輩達の、ほとんど卑怯ともいえる戦法に立ち向かっている訳だから、むしろ褒められるべきだとリアンダーは思う。しかし、それは許されないものだとも分かっている。
今、練習場にいるのは孤児院から引き取った子ども達ばかりである。交戦の続くさなか、両親を亡くす孤児たちが増えてしまい、その問題を解決する為に国王が孤児達を軍に引き取らせるようにしたのだ。そして、一日も早く戦場に出せるため、軍の考えた育成プログラムが今行われているものだ。身を守る訓練と言われているが、決してそんな優しいものではない。できるだけ時間を稼ぐという、前線に行く事が前提されている訓練だ。
士官たちもそれが分かっているので、情が移らないためにも彼らは優しい言葉などかけたりしないのだ。そして、そんな彼らを責める事もリアンダーには許されない。皆、どうにか今日を乗り越えようと頑張っているのだから。
そんな中、前から来る攻撃をかわしている少年に、死角からもう1つの攻撃が降り注いできた。
当たる!とリアンダーが息を飲むと突然、少年の体が崩れ落ち横へ転がった。だが、無理に攻撃をかわしたものだから直ぐに体勢を立て直すことができず、少年は肩に打撃を受けた。

苦しげな表情で立ち上がる少年を、リアンダーは実はここ数日観察していたのである。
士官の1人が、勘が良い奴がいる、と言うのでちょっと興味がわいたのがきっかけだ。だが、日を追う毎に、少年のアレはただの勘ではないと信じるようになった。死角からの攻撃を、少年はいつもかわしているのである。言うならば、姫の『力』と似ている能力ではないかと。
少年をこのまま前線に向かわせるのは惜しかった。すごい能力につけくわえ、剣の筋も悪くないのだ。後にはリアンダーさえ凌ぐ戦士になるのではないか?
リアンダーは決めた、あの少年を引き抜こうと。
さて、どうやって士官を納得させるものか? 家具はもう、ほとんど残っていなかった。
隊長と再会した後でも連絡が取れるように、メールアドレスを交換したのだ。だが、会話するには昔と同じ言語を使えばいいのだが、読み書きではそうはいかないと気付いた。それを伝えるとエイレはドイツ語でもいいよと言った。
驚いた事に、彼女はドイツ語だけではなく英語やフランス語、ロシア語や中国語など数々の言語を使えるのだ。素直に感心していると、昔に比べ体力が減った代わりに知力がついたのね、と彼女は苦笑いをしてみせた。
それから1ヶ月半、やっと仕事も終え、アレックスはエイレのアパートに訪ねた。何か手伝う事はないかと思っての行動だったが、彼が手伝えるようなことは全く残っていなかった。
家具がほとんど無いうえ、部屋もきれいに掃除されていた。隊長はやっぱり、隙が全くないなとアレックスは舌を巻いた。
「腕はもう大丈夫?」
心配そうにエイレは聞いてきた。2週間ほど前に仕事で腕を痛めたと書いたので、それが気になっているようだ。
「ああ、この通り。受け身が良かったから大した怪我にはならずに済んだ」
それを聞いて彼女は、今も第六感が働いているのねと安心したように笑った。
アレックスがユリウスと呼ばれていた時も、隊長は彼のその能力を褒めていた。しかし、彼自身はこれがそんな大した能力ではないと思っている。どんな事態にも諦めず、前へ進む隊長の方こそが凄いのだと信じているから。
そんな中、宛先の書いてある箱を1つ見つけた。しかも、送る先はイギリスである。
「これは?」
「ああ、それ?」とエイレはインスタントの珈琲を渡しながら言った「それは写真やアルバム。この前あんな事言ったけど。さすがに写真とかは捨てられなかったから、名付け親のところに送るつもり」
名付け親ときいて、アレックスは一瞬考え込んだ。
「エイレはカトリックなのか?」
笑ってからエイレは違うと否定した。
「母が大学の時からの友人で、本当に仲が良かったの。で、私には父親がいないから彼にいい名前ないかと相談して、エイレって名前がついたの」
あ、もちろん彼には家族がいるけど皆の了承は得たんだよ?と彼女は付け加えた。
へぇ、と思ってもう1度よく見たら、エイレの名前の綴りがEHREである事に気がついた。
ドイツ語で名誉、光栄、敬意などを意味するEHRE。そう言えば、彼女の母は独和の翻訳家だったとメールで書いてあったなと思いだした。
隊長にあった名前だとアレックスは一人納得した。
「あと2週間でアメリカかぁ〜」
感傷的にエイレは言う。やっぱり寂しいのかなとちらりと見るアレックスだが、予想に反して彼女は笑っていた。悲しむというよりは、懐かしむ感が強かった。
「アパートは何時受け渡すんだ?」
「その日、飛行機が夕方だから大丈夫だと思って」
「じゃ、迎えに来るから」
しれっと言うアレックスに、別に迎えに来なくても良いよとエイレは遠慮した。そうしたら、

「…やっぱり、頼ってはくれないのか?」と、アレックスが沈んだ声で言った。
拗ねた! エイレは思わず大爆笑した。
なんでこういうところは昔と変わらないのだろうと、お腹を抱えながらエイレは思った。
ユリウスもリアンダーの役に立ちたくて、一生懸命だった。その健気な姿が好ましかったが、リアンダーのプライドがそれを安易に受け入れられなかった。
でも、今は違う。
目の前にいるのは幼さが残る青年ではなく、立派に成長した男性である。自分も隊長ではあっても、『赤獅子』という二つ名をもつ戦士ではなくただの女なのだ。
「じゃ、言葉に甘えちゃうね?」
そう言うと、アレックスは目に見えて喜んだ。
どうやら生まれ変わった今でも、性格の根本的な部分は変わらないようである。
出発は2週間後。
↓あとがき
第四話です!
ええ、今回はユリウス/アレックスに重点を置きたかったので、転生前の話も前回の続きではなく、思い出話になりました。あの話の後、隊長はユリウス君を引き抜くことに成功するわけなんですが、最初は反抗しちゃうんですよね〜。孤児として引き取られるって書きましたが、本人たちは売られたと感じちゃってる。ユリウス君も例外じゃないので、なんなんだこの人は、そこまで偉いのかよ!って反発する。
でも、その後は打ち解ける(懐く)ので隊長の役に立ちたいと切に思うようになるのです。
で、その気持ちがアレックスにも受け継がれたたわけなのです!
彼が拗ねた訳は、今でも隊長の役には立てないのかと思ったからなんです(苦笑)
そして、今回は書かなかったのですがアレックスはすんごい生真面目な人で、『○時に行く』と言ったらきっちりその時間に行く。だから今回も、アパートを2時に訪ねるといったら、本当に2時ちょうどに来たもんだから、エイレはびっくりしたんですよね(笑)
いつかこういうネタを4コマとして描きたいと思ってます!
では、いつもの楽しい人物紹介!
アレックスの転生前の姿、ユリウス君です!

名前: ユリウス
年齢: 17
髪の色: 金髪
目の色: 鮮やか緑の目
身長: 170−
特技: 第六感が異常なほど鋭い
ちなみに転生前の年齢は彼らが『消えた』時の年齢って事になります。
今回の転生前の話のユリウス君は10〜12歳あたりですからね!
P.S.
バル側−登場人物というカテゴリーを作りました!
登場人物たちをしっかりと紹介するところなんで、時々内容が変わったりする事もあります。今はエイレ一人ですが、徐々に増やしていきます!
(全身像って時間がかかるんですよね)
では、次回をお楽しみに!!
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