STUDIO EL @ BLOG
『スタジオ える あっと ブログ』 略して 『鼻眼鏡』!(ええええ?)
お知らせ♪
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
第三九話 『連絡を待ちながら』
 夜のロサンゼルスは冷える。昼間は半袖でも大丈夫なのに、日が暮れると気温がガタっと落ちる。そして今は秋の終わり、日によっては吐く息も白くなる時があるのだ。そう、今日のように。
 ほとんどの人がコートを羽織っている中、アレックスは七分袖のシャツを着ているが全く寒くは無かった。むしろ熱いくらいで、先ほどから額を流れ落ちる汗が煩わしい程なのだ。そして、それは相手も同じだろう。そう、3階建てのビルの屋上で、アレックスはとある男と組み合っていた。
 しかし、相手の方が上手らしくアレックスは端まで追いやられてしまった。それでもなお健闘するが、ついに足を滑らしてしまう。が、寸の所で相手がアレックスの襟元を掴み、ビルから転落するのを防いだ。

 助かったと思うのもわずかの間、男は二言三言話してから、今度こそアレックスを突き落とした。



 悲鳴と無様な体制のまま落下するアレックス……

















 ボスッ!!


「はい、カットォ!」

 セカンド監督の声で、安全マットから起き上がるアレックス。これでやっと今日一日の仕事が終わったのだ。
 疲れている体に鞭打って立ち上がると、周りから拍手が沸き起こった。はて、と首をひねるとすぐ近くにハインツが佇んでいるのを見かけ、そうかと納得した。
 今のシーンはハインツが演じるキャラクターの最後のシーンだったのだ。いや、最後といってもハインツ自身はあと何回か撮影をしなければならないのだから、厳密に言えばキャラクターの死ぬシーンだ。そしてアレックスにしてみれば今日でこの撮影チームとお別れになるので、そういう意味での拍手だろう。
 おつかれ、とハインツがタオルを投げてくれたのでありがたくそれを使わせてもらい、アシスタントの子からコートを受け取り羽織った。
「いやぁ~、お前のスタントを何度も見て来たけどさ、ほんっとうにリアルだよな?」
 心臓に悪いぜとハインツは笑う。
「……むしろ、お前の頭の方が心臓に悪いんだが」
 眉をひそめて言うアレックスだが、それもそのはず。ハインツは頭をかち割られたかのように血が流れ出している…様に見える。もちろん、特殊メイクの力であり、アレックスが転落するシーンの後すぐ次のシーンを撮れるように準備していたのだ。
「ま、とにかくお疲れさん。俺は『最後の息吹』を撮んなきゃならないけど、そのあと夜食でも食いにいかね~?」
「彼女はどうしたんだ?」
「今日はおばあちゃんの誕生日だって、ふられた~!」
 そう言って先ほどアレックスにコートを渡した同じアシスタントの子に自分のジャケットを渡して、じゃ後でなと撮影に行ってしまう。
 ちゃんと返事を返してないのに、もうハインツの中では夜食を一緒に食べる事になっているのであろうと、アレックスはため息をついた。でもまぁ、自身もだいぶお腹がすいているのだから良いかと諦めた。
 とりあえず、軽くシャワーを浴びようとスタジオに戻る。



 汗も洗い落し、新しい服に着替えたアレックスは今日初めて携帯を見た。王女親衛隊が結成されてから、携帯の着信を確かめるのは半ば習慣になっていた。何かあったらすぐに連絡を入れる、相手はどんな時間にでもちゃんと電話をひろう、そのようなルールが出来上がっていた。
 着信を見てみるとデイビットから一回だけ着信があり、他には何もなかった。何かあったんだなと想像はついたのだが、一回しか電話をかけていないところを見ると凄いピンチでもないんだと、ホッと胸をなで下ろす。面白い事に、その場にいない仲間への伝言をまわすのがデイビットの仕事になっていた。いや、サンディの頃からそうだったかも知れない。隊の中では一番協調性があったのはサンディで、癖の強い隊員の間に立ち皆をなだめていたのを覚えている。その時の癖で、今もこうやって伝言係を進んでやっているのだろう。
 時計を見ると9時を回っていたが、デイビットは軽く徹夜をする人なので遠慮なく電話をかける。
『は~い、アレックス!仕事も終わったの?』
「今さっきな。で、電話をくれたみたいだが、何があった?」
『うん、ラモンがね、ちょっと怪しい人を見つけたんだ』
 そう言って、デイビットは蜥蜴男の話をしたが、アレックスは純粋に驚いた。なぜなら、アレックスはそんな見張られている気配なんて全く気づいてなかったのだから。
『…って言うのがあってね、アレックスも気をつけてって話なんだ。どう?何かピンときた?』
 もうひとつ面白いのは、アレックスの第六感に皆が理解を示すようになってきたのだ。ただ、それはエスパー的なものじゃなくて「アレックスの感は当たる」という認識。だけど、あまりにも期待されたり、その反対で信用しなすぎるとプレッシャーになるので今がちょうど良いのである。
 しかし、この付けられているのは全く気づかなかったので、素直に話すがなんだか悪い気がしてしまう。案の定、デイビットは妙な声を上げた。
『気付かなかったの?ここ1週間は見かけたってラモンが言ってたのに?』
「まぁ、俺も仕事が忙しかったから…」と言いかけ、アレックスは急に口ごもった。とあるイメージが頭に浮かんだのだ。
「ニーシャだ」
『へっ?』
「そいつは、ニーシャを見張っている……多分、ヨーロッパまでそいつはついて行くぞ」
 ちょっとまって!とデイビットは慌てた様子で言い、ニーシャを呼んだ。テンパリやすいところは相変わらずだなと、アレックスは冷静に考えていた。
 しばらくすると、ニーシャの声が聞こえてきた。
『何、エイレに続いて私が狙われているの?』
「いや、狙われてはいない…と思う。言葉通り、見張られている気がするんだ……
 本当に、心当たりはないのか?」
 アレックスが逆に聞き返すと、ニーシャは何故かしばらく押し黙った。そこで何かが引っ掛かったのだが、これはつっこんではいけない様な気がした。
『……で?アンタはどうしたら良いと思うの?』
 ぶっきらぼうに言うニーシャだが、それは彼女がそれほど真剣だという事なので、アレックスもそれに応える。
「とりあえず、ラモンも一緒にヨーロッパに行った方が良いと思う」
『確かに…デイビットじゃ盾代わりにも忍びないもんね~』
 後ろの方でヒドイ!と叫ぶ声と笑い声が聞こえてきた。みんな同じ部屋にいるのか。
『まぁ、アンタは一人でも大丈夫でしょうしね。じゃあ、蜥蜴男には気をつける事にするわ』
 そうしてくれ、と別れの言葉を言ってからアレックスは電話を切った。


「電話終わった?」

 見計らったようにハインツが声をかけてきた。振り向けば髪は多少湿っているが、特殊メイクの血がすっかりと消えている。撮影を終え、シャワーを浴びられるほど長く話していたのかとアレックスは吃驚した。
「で、エイレ元気?」
 唐突にその名が出てきてアレックスは面白いほど動揺した。
「な、何で彼女の名前が出てくるんだ!」
「イギリスに行ったって言ってたろ?その連絡の電話かなぁ~と思っただけさ」
 ふふんと鼻を鳴らすハインツにアレックスは頭痛がした。なんてことは無い、鎌をかけられたのだ。
 エイレが一緒にアメリカに来た時から2人の仲についてからかわれていたが、最近になってハインツは確信をもつようになってきた。ティーンエイジャー時代からお互いを知っているためか、そういう些細な違いにも敏感に反応する物なのか?
「……今のは別件だ」
「じゃ、エイレから連絡は来てないの?」
 ちょくちょくメールは来ているのだが、どこか同情的なのがムカついたので、アレックスは自分の濡れたタオルを投げつけた。ギャアー、と悲鳴が聞こえたがそれを無視してアレックスはさっさとスタジオを出る。ハインツはすぐに追いつくだろうからそれは心配ないのだが、たぶん今夜はエイレの事について尋問されるのだろう。


 エイレへの気持ちを自覚したものの、アレックスはまったく行動を起こさなかった。彼女だけではなく、他の皆もが過去の自分とは別なのだと割り切れるまで待つつもりでいる。例えそれがどんなに辛くても。
 今エイレから電話がかかればそれは彼女が崩れそうになっているからだ。限界まで一人で頑張ったが、それでも駄目な時に最終手段としてアレックスを頼る時だ。

 彼女の声は聞きたい、でも、そんな切羽詰まった状態の連絡は絶対に来てほしく無い。


 それでも、今のアレックスには彼女からの連絡を待つ他ないのだ。





↓あとがき

スポンサーサイト

テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

copyright © STUDIO EL @ BLOG all rights reserved.
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。