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『スタジオ える あっと ブログ』 略して 『鼻眼鏡』!(ええええ?)
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第三八話 『蜥蜴の男』
 ラモンは不意にカメラを取り出し、パシャリと街中を写した。グアテマラから出た時、置いてゆくつもりだったカメラをニーシャが目敏く見つけてしまったので、表向きは仕方なくカメラを持ち歩いているように見せているラモンだった。
 確かに写真を撮るのは好きだったのだが、ギャングに入っていた頃スパイするために使っていたせいもあり「カメラ=商売道具」という形式が頭の中に出来上がっていた。それなのに、あの軍師様は「後悔するから」とカメラを持ち出しただけではなく、ラモンにその出来映えを見せろと命令した。そうでもしなければラモンはカメラを自分の為だけに持たないことを分かっていたかは知らないが、おかげで彼はもう一度写真の魅力に目覚めていった。
 だから彼は毎日街に出ては目に付く物すべてをカメラに収めた。ずっと飢えていた何かを潤すように、どんな些細な物にでも興味を示し写真を撮っていた。
 そして今また何かを発見したラモンは同じようにシャッターを押したのだが、突然舌打ちをし、同じ場所を連続で撮ってからきびすを返してしまう。そして携帯を取り出すと、訛りの強い英語で「問題がでてきた」と報告した。






 アレックスのアパートで集合するのはもう危険だと判断したデイビットは、自分達の居場所を教えてしまえる物を全部取り替えた上でホテルを借りた。アレックスのアパートも変えたいくらいだったが、年末に出ていくのに今引っ越しをするのはおかしいと、至極まっとうな意見で却下された。
 ただ、ラモンはてっきりモテールを3部屋別々に借りるのかと思っていたので、まさか高級ホテルのスイートに泊まれるなんて想像をもしなかった。金もかかるし別にこんな所を借りなくてもいいんじゃ、と初めて見るホテルを見上げながらラモンは言ったのだが、料金が高い方が警備もしっかりしているのだとさも当然に言われたので、お金に関わることにはもう口出ししないと決めた。
 ホテル、しかもスイート、を長期にわたって借りているおかげか、ラモンは人生で初めてVIP待遇を味わえた。初日なんてエントランスを入るといきなり名前で歓迎されたので、もしかしたら自分は目を付けられているのかと悪い方向へ頭が働いて挙動不審だった。それが今になると我が物顔で平然と部屋まで行くのだから、ラモンも順応性が結構高い。

 ホテルの部屋をノックしてからしばらく待つとデイビットがドアを開けてくれた。
「あ?今日は軍師様が留守番じゃないのか?」と、部屋に入るなり自分よりも長身の男に聞く。
「ヨーロッパの気候を調べてたら、もうちょっと暖かい服が必要になるって買い物に行っちゃった」
「別に明日でも良いじゃないか、自分は自分の分を買えば済むんだし」
 いや~それがね、とデイビットは照れ臭そうに言う。
「ニーシャが僕にはファッションセンスが皆無だと言われちゃってね?だからコーディネイトしてくれるって言うからついでに買ってきてくれるみたい」
 ラモンは一瞬デイビットをバケモノみたいに見たが、すぐさまその服装を見て妙に納得してしまった。
 ファッションセンスの有無ではなく、ただ単に野暮ったいのだ。基本的にポロシャツとカーキ色のズボンでメガネをかけている、見るからにしてオタクな服装。自分のスタイルは自分で決めているラモンにしてみれば、ありえない格好だ。
 ニーシャも見かねたのだろう、だから服を買うと言ったのだから。しかし、それを甘んじて受け入れるデイビットも問題があるんじゃないかと思ったが、それは心にしまう事にした。


 ニーシャはその20分後にホテルの部屋に着いた。ドアを開いたデイビットの、すごい量だね、の声に反応して顔をあげると軽く10袋を抱えているニーシャを見て唖然とした。
「女は何を買えばそんな数を買えるんだ?」
「バカ言わないで、これはぜ~んぶデイビットの分。もう、この子の身だしなみがもう哀れで哀れで…後で試着して見せて頂戴ね」
 タグは取っちゃ駄目よ、と釘を刺してからもう一度ラモンに向きなおり、あんたのおかげで自分の買い物はまた今度になったと愚痴った。
 あてられた事を心底嫌そうにしたラモンだが、とりあえず問題になったものを見せようとテーブルの上にいくつかの写真を並べたラモン。それ写真を見て、ニーシャは顔を歪ませる。
「全部ぶれているじゃない。何?カメラに問題があって、それを私に報告してるの?」
 そんな訳あるか、とラモンは言い返しそうになったが何とかグッと堪える。つい最近の事だが、もうジェネみたいな子どもではないのだからと気が大きくなりニーシャ相手に軽口をたたいたのだが、それがまずかった。絶対零度の微笑み浮かべてから、ニーシャは「もう一度そんな口を私にきいたら、只じゃすまないわよ」と、もっと心をえぐる言葉ラモンに浴びせたのだ。そんなこともあり、ラモンはネストルと言葉を交わしていた時以上にニーシャに対して口答えはしないようにした。口の悪さは相変わらずだが。
「そうじゃねぇ、共通点がわかんねーか?」
 そう言われて今度はジッと写真を見るとすぐに何かに気が付くニーシャ。
「こいつ」と、とある男を指さす。「こいつが全ての写真に写ってるわね」
 そう、まさにそれが問題なのだ。
 『こいつ』とニーシャが指差したのは、色黒で髪を染めている男だった。いつからかは分からないが、少なくとも一週間前からラモンはそいつを頻繁に目撃している。最初は地元の人かと思ったが、それにしては気取ったファッションだなとも思った。しかし、こう毎日見かけるのはおかしいし、よく考えたらラモン達が借りているホテルを見張っているかのようにいつもそう遠くない同じカフェで見かけた。
 今日、ラモンがついに報告しようと思ったのは、その男が困惑したようにホテルの方を見ていたうえ、小さな双眼鏡を取り出し自分達が泊まっている部屋の方を見ていたからだ。
 長年のスパイ時代の勘が、これは偶然じゃないとラモンに語りかけていた。
「こいつ…何者なの?」
 そう言うニーシャの表情がネストル頃とまったく変わってない。ネストルはどちらかというと爪を隠す鷹タイプで、普段はおちゃけたりふざけていたので、王女親衛隊に入ったばかりのジェネにはどこが偉いのだかとなめていた。しかし、必要性が出れば、リアンダーに引けを取らない程周りを圧倒してしまえるのだった。
 その頃を思い出しながら、ラモンはこっそりと息をのむ。恐怖からではなく、どちらかといえば興奮にちかい。自分も好戦的になったとラモンは自得した。
「アンタが知ってるんじゃないかと思って見せたんだが」
 そう言うと、うーん、とニーシャは唸ってからデイビットを呼んだ。
 呼ばれた本人は新品のシャツを着ていた。ちょうど試着の途中だったのだろう、なかなか似合っているので賞賛の眼差しをニーシャに向けるラモン。
「この写真の男、見覚えない?」
 そう言ってデイビットに写真を渡すが、少々考えた後、知らないと首を振った。
「となると……結局なにも分からないじゃない」
「え?少なくとも王女を狙っている敵ではないんじゃないですか?」
「そうとは言えないでしょ?」と、首を振るニーシャ。「私達のあったことのない敵もいれば、昔とは全く関係ない一般人も勧誘しているらしいみたいだし…
 あのマティアスの言い分だからあんまり信頼できないんだけど、エイレが本当の事だと言われちゃうとね~。信じる他ないじゃない?」
「まぁ、好敵手だったんだし、なんか通じるものがあったんじゃねーの?」
「冗談じゃない!」ラモンの一言にニーシャは怒った。「あの子とマティアスに通じるものがある?あんなドSで破壊欲求の塊で歩くわいせつ物と一緒にして欲しくないわ!」
 なんだか隊長へのえこひいきが酷くなっているような気がする、とラモンは思った。
「だが、隊長はなんか信用してるよな『黒豹』のこと?」
 そうなのよ…とニーシャは途端に暗い表情になる。
「理由を知りたくても、困ったように微笑まれちゃうから私もそれ以上は何も聞けなくなるのよ……」
 そう言ってから、しばらく誰も口を開かなかった。しかし、その沈黙を破ったのは、最後に発言したニーシャ。
「まぁ、それはともかくこの男は私達の内の誰か、もしくは全員をつけている可能性は高いわけね」
 アレックスのファンだったら笑えるわね、と勝手な事を言う。
「ま、そう言う訳でこの蜥蜴男を見かけたら気をつけるようにって事で良いか?」
「蜥蜴男?なんでそうなるの?」
 デイビットの疑問にラモンは男の服装を指して言った。
「こいつはな、何時も同じブランドのスーツを着てんの。名前くらいは聞いたことねーか?」
 ブランド名を聞かれてからデイビットは納得した。






 ブランドのモチーフこそが『トカゲ』なのである。





↓あとがき

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