STUDIO EL @ BLOG
『スタジオ える あっと ブログ』 略して 『鼻眼鏡』!(ええええ?)
お知らせ♪
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
第三二話 『借り』
 自分が隊長代理だと宣言したユリウスの言葉に、男達はざわめきたった。そんな話は聞いていない、やら、本当のことなのか、と口々に言っている。
 そんな男たちの様子を、呆然と眺めていると、突然ユリウスに小声で叱られた。
「何してるんだ、早く逃げろ」
 逃げろだなんて、見下しているようにしか感じられなくて、ジェネは思わず反論の声を上げるため立ち上がろうとしたが、また尻もちをついてしまった。何だ?と疑問を感じているとユリウスが何故か舌打ちをし、剣を鞘に戻してから急いでジェネを立たせ走り出した。
「腰を抜かしているならさっさと言えよな!」
「腰なんか抜かしてねーよ!ちょっと滑っただけだって!」
 こんな時でも減らず口がきける事に、かえって感動を覚えるユリウス。しかしその時、背中をひやっとしたものがかけ落ち、ジェネを放り出しながら転がる。
 何をするんだ!とジェネの文句が聞こえた気もしたが、それを気にせずユリウスはまた剣を取り出し、頭上から落ちてくる攻撃を防いだ。腕からビリビリと振動が伝わり、純粋な力の差を感じてしまい脂汗が顔を流れる。しかし、ユリウスは引かない。絶対に引けない。
 もう一度剣を振り落とす男の攻撃を、前転をしながら避け、低い体制のまま男のアキレス腱を斬る!
 それは一瞬の出来事で、ジェネが非難の声をあげ振り返った直後に男は悲鳴をあげて倒れた。


 その悲鳴の生々しさに、全身の血の気が引く感じがした。

 そして、その男にそんな声を上げさせるユリウスを一瞬恐ろしいと感じてしまった。


 今度は剣を鞘には戻さず、ジェネを立たせるユリウス。そして、彼の目をしっかりと見据えながら言った。
「今にでも倒れそうなお前が、戦う、なんて言うな。お前の得意分野はそんなものじゃないだろ?
 お前の特技はその足だ。
 だから走れ、ジェネ。走ってネストルに今の状況を伝え、この抜け道を封鎖させろ!」
 俺の事はいいから!とジェネの背中を押しながらユリウスは叫んだ。



 多少後ろ髪が引かれる思いだったが、ジェネは言われたとおり、走った。あの生真面目な坊ちゃんが、いつもバカにしている相手が、こんなにも頼もしく感じてしまうなんてちょっと悔しかった。

 でも、一番悔しいのはそんな相手に借りを作ってしまった自分であると自覚しているジェネだった。











 ラモンはそんな成長したユリウス、つまりはアレックスの横顔を睨んでいた。昔のあの時に付け加え、先ほども命を助けてもらったから彼には2つも借りがあるのが腹立たしい。
 ちょっと離れた場所ではニーシャがデイビットに電話をかけていて、必然的に2人きりの状況なのだが、どちらからもなかなか話しを切り出さない。もともと仲が良いとはいえなかった二人だからだろうが、先に折れたのはアレックスの方だった。
「……文句あるんだったら、口で言ってくれ。そんなに睨まれても、俺にはどうしようもないんだから」
 心底困っている口調で言うアレックスを、鼻で笑う。
「お前のことなんか、大嫌いだと再確認しているだけだ。」
 ラモンの身も蓋もない言い様に、呆れつつも否定はしない。ユリウスはジェネと始めて会った時から気に入らなかったのだ。生意気な態度とか、可愛げのない言葉とかいろいろあるが、根本的に性格が合わなかったのだ。
 しかし、そんな2人でも共通点が1つだけある。
「…なぁ、エイレ…隊長とはいつ会えたんだ?」
 真剣な声色に若干驚くものの、ラモンは素直に一週間前位かなと素直に言う。
「そのとき…どんな様子だったんだ?」
 変な質問だなと訝しんで振り返ってみると、アレックスの切実そうな表情に息を呑んだ。
「やつれていたし、目の下のくまも深かった。そして、少ししか喋ってないけど、それだけでも表情がぎこちないのが分かった…
 だから、この2週間ちょっとで何かがあったはずなんだが、教えてくれないか?」
「…そんなの、隊長自身に聞けば良いことだろ?」と、思わず目をそらしてしまうラモン。
 だが、アレックスはラモンの提案を首を振って否定する。
「隊長は、俺にはそんな事を絶対に教えてくれない。
 ユリウスの頃から解っていたんだ、隊長が俺に対して過保護だってこと。俺に心配させるくらいなら、あの人は口を噤んでしまうんだ…」
 アレックスの意外な一面に、ラモンは面食らった。優等生で良い子ちゃんのユリウスが、そんな風に考えていたなんて思ってもいなかったのだ。
 そして、とアレックスは続けた。
「お前にだって、あの人は甘かったんだ」
 2人はしばらく口を開かなかった。
 アレックスの言い分はもっともである。ラモンだって、ジェネの頃から隊長が自分にも甘い事を知っていた。孤児でストリート・チャイルドだった為、ずっと甘やかされた記憶のないジェネはそれが嬉しくも恥ずかしくて、ついつい反発してしまっていた。
 それでも隊長はかまってくれた。ユリウスとは違うやり方で…
「だから」とアレックスは言った。「お前が本当に隊に戻りたくないのなら誰もそれを引き留めない、むしろ俺はそっちの方が良いと思ってる」
「素直だな」
「でも、戻りたいと思っているのなら…
 あの人はお前を拒まないし、むしろ喜んでくれるさ」
 そんな言葉を投げかけられ、ラモンは居心地の悪さを表しているのか、下唇を不自然に突き出した。それを見て、アレックスが笑い出してしまい、ラモンの笑みをこぼした。
「まぁ、お前には借りがあるしな~」と、笑いが止んでからラモンはぼそりと言った。
 借りとは何のことだか分かってなさそうなアレックスが想定内ではあるものの、やっぱり嫌味だなと感じるラモン。



 でもまぁ、こいつは本当に隊長の様子が知りたいらしいから教えてやろう。とりあえずそれで借りが1つ返せる。それでもまだ1つ残っているままじゃ気がすまないので隊に戻らせてもらうさ。

 もちろん、アレックスにその事を教えるつもりはないけどな。












「ねぇ、エイレ?……あなたはいったい誰なの?」
 そう言った時、一瞬だけ彼女の目が揺らいだ。それは彼女を凝視していたデローリスにしか見られないような、ほんのわずかな揺らぎ。でも、確かに揺らぎであった。
「…あなたと話していると、同年代の女性と話している時があれば、私よりもはるか長い時間を過ごしてきた人と話している時があったの。ラモン……彼にも時々そんな雰囲気があったけど、あなたほどはっきりした違いじゃなかった。
 そして最近、私は同年代のあなたとは全く話してない。

 だから教えて、あなたは誰なの?何が目的なの?」



 そう聞くと、エイレは静かに目をつむった。そうしていれば、彼女は同年代に見えるのに、とデローリスは思う。
 でも、目を開くと『エイレ』は消えていた。
 そして、エイレの姿をした違う人が、彼女の声を借りて言った。
「ただ、守りたい人がいるだけ…
 そして、その人を守るために私は強くならなければいけない。たったそれだけの事なの」



 だから、私は誰か、なんて重要な事じゃないの。




 そうはっきり言ってから彼女は微笑み、デローリスに、とにかくシェルターまで送るから、と言った。

 それにお礼を言いながらデローリスは、エイレに説明が出来ない不憫差を感じ、願わずにはいられなかった。





 だれか、彼女が…『エイレ』が重要なのだと言ってあげて。





↓あとがき

スポンサーサイト

テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

copyright © STUDIO EL @ BLOG all rights reserved.
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。