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『スタジオ える あっと ブログ』 略して 『鼻眼鏡』!(ええええ?)
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第十五話 『追う者』
『軍師様……ネストルだな?』


 受話器の向こう側から聞こえてきた声に、ニーシャは一瞬、誤魔化してみるかと考えたが、お互いが昔の言葉を使ってしまったせいでそうもいかない。それに、ニーシャが相手が誰なのか分かってしまったように、相手も自分が誰なのか分かってしまっているだろう。腹をくくり、覚悟を決めた。
「…『黒豹』マティアス」
 その名を口にしたとたん、アレックスとデイビットが息を飲むのが聞こえた。
『ご名答、声だけでも相手が分かるんだな』
 くつくつと愉快そうに笑いながらマティアスは言ってのけた。



 ニーシャは決して頭が悪い訳ではない。学歴がないものの、記憶が戻るまえから彼女の好きな場所は図書館であった。しかし、彼女の読み漁るものは小説ではなく、百科事典などの辞書ばかり。とにかく世の仕組みが知りたくて、その中で特に歴史を頭の中に詰め込めるだけ詰め込んだ。
 それともう1つ、彼女が興味をもったのは心理学。
 ネストルは長い年月を過ごした甲斐あって、人間というものを良く理解していて、それが彼を軍師という地位に就かせた。
 ニーシャにはその年月がない分、百とある心理学の本から知識を吸い取り、それが本当なのか実践して試してみた。その実践は彼女の働いているストリップ劇場で行われたのだが、男性の心理を突こうとした結果いつの間にか1番の人気ダンサーになっていたのだ。


 つまり、彼女はきちんと理解しているのだ、エイレはマティアス等に拉致された事。


「隊長はどこなの?」
『さぁな』と馬鹿にするようにマティアスは笑う『そんな事をペラペラ喋っちゃ意味ねぇーだろ?』
 確かにその通りである、しかしニーシャは何か違和感を感じていた。
「…なら、何で電話してきたの?」
 ここで初めてマティアスは黙った。
 わずか数秒だったが、その間にニーシャは一つの仮説を立てた。



 エイレはマティアス達に捕まった、それは間違いない。そして、少なくともマティアスには彼女が隊長リアンダーである事がばれている。
 では、なぜ電話してきたのか?
 隊長を捕まえた、返して欲しくば姫を差し出せ!なんて要求するとは思えない。…いや、これがタナトスあたりならするかも知れないが、相手はマティアスだ。彼はリアンダーとは対等でありたいと思っているのだ。だから、隊長をだしにする事は考えにくい。
 ならどういう事か?
 もしかしたら彼の方も私達の居場所を測定できるように、この携帯を探知しているのかも知れない。
 もしかしたら、ただ単に王女親衛隊(私たち)の不甲斐無さを嘲笑いたいのかも知れない。


 いや、もしかして…彼は何かを確認したかったのか?




『…さあな?』
 慌てた様子もなくマティアスは言った。
『あえて言うなら、声だけでも相手が分かるのかを検証してみたかった、とでも言おうか』
 いまいち何を指しているのかが分からなかったが、ニーシャはとりあえずそれを無視した。それよりも、彼女には知りたいことがあった。
「あんた…うちの隊長には手を出してないでしょうね」と、持てるだけの力量で、精一杯凄みをきかせて言う。
 電話の相手はそれをくつくつと笑いながら受け止めて、また『さぁな?』と誤魔化した。
 その返答にカッとなり、ニーシャは彼女の知る限りの罵声と罵倒をマティアスにかける。あまりの言葉の汚さに、後ろに控えるアレックスとデイビットが怯むほどだ。しかし、意外な事にニーシャの怒りを収めたのもマティアスだった。
『馬鹿にするな!俺が捕虜をそうやって扱うか!』
 純粋な怒りに、思わずニーシャが黙った。
『確かにそういう事は起こる、それは認める。だが、俺の管轄下では絶対そんな事やらせん!』
 そう叫んでから、マティアスは一方的に電話を切った。



「最後の爆発はなんだったの?」
 恐る恐るとデイビットは聞いた。
「…エイレに手を出したってマティアスが暗に言ったのを…私が、一番最悪な出来事の方だと早とちりした。それだけの事よ」
 一番最悪?と首をひねるデイビットをよそに、アレックスは全身の血が凍りついた感覚にみまわられた。


 ニーシャは、エイレが強姦されたのかと心配していたのだ。


「でもまぁ、マティアスが怒ったところを見ると、それだけは絶対にやらせなかったみたいね」と、どこかホッとして言った。「でも、だからと言って完璧に安全は出来ないけどね」
 ところで、と彼女は続けた「彼女の携帯の場所、分かった?」
 あ、とデイビットはコンピューター画面に振り返り、分かったんだったと報告した。
「ええと、この場所は…中南米の……メキシコの下で」
「グアテマラだ」アレックスが助け船を出した。
「そう、グアテマラ!今の電話の発信場所も分かったから、そこに隊長がいるはずだよ!」
 良くやったとニーシャは誉めようとしたが、アレックスは「違う」と否定した。
「エイレはそこにいない」
 顔を見合わせるニーシャとデイビット。
「もしかして」とデイビットは聞く「イメージを感じた?」
 アレックスは頷いた。
「少なくとも、エイレはその場所にはいない。グアテマラにいるのは確かだが…ここの(コンピューターの画面を指さす)発信場所にはいないのは確かだ」


 そうか、とニーシャは納得した。彼女が違和感を覚えたのはそれだった。マティアスは確認したのだ、エイレがニーシャ達と連絡を取ったのかを。


 つまり、彼はエイレを取り逃がしてしまったのだ!




「おっしゃ!こうなったら、今すぐにでもエイレを奴らより先に見つけ出すのよ!」
 嬉々とするニーシャだが、ふとデイビットは疑問を投げかけた。
「グアテマラって、普通パスポートいるよね?ビザも必要なのかな?」




 その時、ニーシャの動きが完全に停止した事を記しておこう。




 この世に産まれて27年、アメリカを出た事のないニーシャはそういえば、パスポートを持っていないんだと初めて気が付いた。











 ちっ、と先程まで使っていた携帯を見ながらマティアスは舌打ちした。ネストルにあんな疑いをかけられるのは心外だった。だから思わず感情にまかせて電話を切ってしまった。
 さて、今のでネストルは気がついたのだろうか?
「いや、気がつくはずだな」とマティアスはほくそ笑んだ。



 マティアスが出掛けたのは一日だけなのに、その間に部下たちはリアンダーを逃がしてしまったのだ。もちろん、無能な部下たちをマティアスはこっぴどく叱ったが、実は彼はそこまで怒っていはいない。
 確かに苛ついてはいるが、リアンダーからはその位の事はしてもらわないと困る。



 彼は自分の好敵手なんだから。






 逃げる者と追われる者。マティアスは獲物を狩る時の獣、『黒豹』の表情になり、今は黒い瞳が昔のように金色に輝いたように見えた。





↓あとがき

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テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

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