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『スタジオ える あっと ブログ』 略して 『鼻眼鏡』!(ええええ?)
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第十三話 『例え今が辛くても』
 部屋を見渡してみれば、申し訳程度のベッドとプライバシーのかけらもないトイレしか付いていないのが分かった。壁もコンクリートや木などではなく、土をそのまま固めた感じでしかない。ちなみに窓はあったが天井の近くにあるうえ、ガラスはなく鉄格子で固めてある。目隠しをされていた時には感じなかった、違う種類の恐怖感がエイレを襲った。
 そんなエイレの様子を知ってか知らずか、マティアスは先程まで彼女の座っていた椅子に腰を据えると、エイレも座るように促した。他に座れる所と言えばベッド、と呼ぶのも冒涜なような品物だが、しかなかったので崩れ落ちないように気をつけて腰をおろした。
「なぁ、ちょっとしたゲームをしないか?」
 いきなり提案するマティアスに、ゲーム?とオウム返しに聞く。
「1問につき1問、お互いが聞き答える。ただし、どっちかが本当の事を言っていないと感じたらゲームは即終了。
 何てことない、唯の戯れさ」
 そう言って懐からシガレットケースを取り出し、慣れた手つきで一本口にくわえエイレにも勧めた。彼女はそれを首を横に振るだけの拒否を示し、マティアスは肩をすくめ火をつけた。
「……ちなみに、パスをしても即終了?」
「そうだなぁ」中に煙を吐く「パスは2回まで。3回目で終了だな」
 つまり、ゲームをやるんだな、とマティアスは口の端を吊り上げ笑った。

 本当に変わってない、とエイレは思った。
 自分たちの姿が今と昔と、あまりにも違いすぎていたのでてっきり敵の方もそうなのだと考えていたがどうも違うらしい。
 しかも、実はこれが一番気になっていた事なのだが、マティアスは昔の名前のそのまま使っているのだ。まさか、こっちでも同じ名前で生まれてきたわけでもあるまいし……

「王女親衛隊(私たち)が『消えた』後、何が起こったの?」
 エイレに先攻を取られても、眉ひとつ動かず、マティアスは答えた。
「国王は頑張ってみたもの、2日目の朝を迎える前に白旗を揚げた。軍事力では確かに王国が勝っていたが、一部は俺たちの味方だったから最初の襲撃で王国軍は大半を失くした…それが一番響いたんだろうぜ」
 最初の襲撃、エイレはその事を覚えている。リアンダーの記憶が戻る前に、よく見ていたあの夢がその場面だ。






 軍の将校を中心に集めた国王との会議の途中でそれは起こった。外から突然叫び声と爆発音。何だと皆が疑問に感じた時、扉から武装した兵士が剣を振り上げ突進してきた。
 扉の近くにいた者たちはいきなりの事に対応できず、あっさりとやられた。リアンダー自身、あの場所にいたら命がなかっただろう。
 突進してきた兵士の中には、国王軍の者もいたのだ。
 焦りとほんの少しの恐怖心が彼を襲う。例え将校の集まりとはいえ多勢に無勢、それに地の利が果てしなく悪かった。
 こんな所では死ねないのに、リアンダーは初めて足がすくむのを自覚していた。


 そんな時、呼ばれた気がした。



 呼んだのは何とも鮮やかな緑の瞳を持った青年、リアンダーの後継者で右腕、ユリウス。







 ユリウス、今はアレクサンダー・フォン・ハーツバーグ。自分が消えた事にどうリアクションを取っているのだろう…
「そこで姫さんが王女親衛隊(お前ら)と一緒に『ゼーレン・ヴァンデルング』をくぐったと知ったからな、その後を追うべく俺達が来たってわけだ」


 ゼーレン・ヴァンデルング!
 エイレは耳を疑った、それは明らかにドイツ語だったからだ。あの機械の名前をリアンダーは覚えてなどいなかったが、まさかドイツ語だなんて。



 ゼーレン・ヴァンデルングとは転生、輪廻という意味だ。



「次はおれの番だ……そっちは今何人いる?」
「私を入れて…4人。あなた達は何人いるの?」
「下っ端の者を含めて20人、ただしこっちの世界の住人は数えてないがな」
 ただでさえ王女親衛隊がすべて集まっていてもその4倍の数を敵は持ち合わせているのに、さらにこの世界でも数を増やしているのか?
 絶望的な気分に陥りながらも、エイレは懸命に質問をする。
「…いつから記憶が戻っているの」
 う~ん、と考え込むようにして、ものう5年かな?と興味なさげに言い、新たな質問をエイレに返した。





 その状態がしばらく続いた。
 1つの質問に1つの答え、中には無粋な質問とかもあったが、不思議な事にマティアスは王女に関する質問はあまりしなかった。むしろ、わざとその話題を避けているようでもあった。
 もしかしたらマティアスはエイレ達が王女を見つけていない事に気が付いていて、わざわざ質問しても意味がないのだと気付いているのか?
「じゃ次は―」
「マティアス様、タナトス様から連絡が入りました」
 突然ドアの方から声が聞こえ、マティアスは楽しみを邪魔されたように舌打ちをした。それでも彼は、今行く、と怒りを隠そうともしないで返事した。
 椅子から立ち上がり、そのままドアの方に行くのではなく、彼はエイレの方に寄った。そして、鼻がくっつきそうなほど顔を近づけると、話しの続きはまた今度な、と呟いた。
 エイレは何も言わず、彼が部屋から出るのを見守り、再びドアが閉まるのを見てから、寒気が一気にやってきた。


 体がぶるぶる震え、涙もあふれ出てきてしまった。
 麻の袋のようなブランケットを体に巻きつけ、声をもらすまいと唇を噛みしめ、殴られた場所が思い出したように痛み始めた。
 怖かった。
 でもそれ以上に悔しい。
 今の自分ではマティアスと対峙するだけで、こんなにも恐怖を感じてしまうのが悔しかった。
 ろくな抵抗もせず捕まってしまうのが悔しかった。
 そして、今泣いている自分が情けなくて、悔しい。



 そこまで思い立って、エイレは吐き気を催した。
 プライバシーの欠片もないトイレにしがみ付き、さらに情けなく感じながらもエイレは嘔吐が胃液になるまでその場を動けずにいた。





 もう会う事は出来ない母の存在を、エイレは物凄く欲した。


 しかし、所詮それは願わぬ夢なのだ。
















 やがて震えも収まり、エイレは辛うじて落ち着きを取り戻すと、誰かが近づいてくる音がした。急いでベッドの方に戻り、ドアが開いた瞬間には彼女は何事もなかったように装った。
 迷彩服を着た男はトレイを持っていた。それを地面に置き、エイレの方を嘲笑いながら「卑しく食え」と昔の言語で言い、部屋を出て行った。
 一瞬怒りでトレイごとドアに投げつけてやろうかと思ったが、そんな事をしても意味はない事も分かっている。
 ドアの向こうで、他の男達がスペイン語でまた同じような事を言っているのが聞こえたが無視することにした。例え今がどんなに惨めでも、例え今がどんなに苦しくても、例えどんなに罵られても、例えどんなに嘲笑われても、エイレは、王女親衛隊の隊長は生きなければならない。
 そう自分に言い聞かせながらエイレは硬くて不味いパンを口に含み、鉄の味が濃い水で流しこむ。



 何時でも力を出せるように、いつでも逃げ出せるように。




 敵はまだエイレがスペイン語を理解できるとは分かっていない。それを利用する手段はあるはずだ。不味いパンと水を飲みこみながら、エイレは考えた。



 彼女は気付いていないが、今の彼女の眼はかつてのリアンダーと同じ光を放っていた。






 それは揺るぎのない、強い意志を持つ『赤獅子』の眼。




↓あとがき


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テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

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