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『スタジオ える あっと ブログ』 略して 『鼻眼鏡』!(ええええ?)
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第八話 『悲しい、現実』
「ソワソワするな、姫が気にする」
 ネストルに叱咤されてから、自分に落ち着きが無いのが分かったユリウス。手を繋いだままの姫を見ると、彼女はいつもより白い顔で彼を眺めていた。
 いけない、と思った。
 彼女にこんな顔をさせてはいけないのに、と自分を叱った。
「…姫様」
 手を握り直した。
「隊長は貴女が幸せになるべきなのだと仰ってました。ですから、貴女が何の気兼ねもなく笑えるようになるまで隊長は死ねません」
 そう断言するユリウスが眩しくて、姫は思わず目を伏せてしまった。

 そんな2人のやり取りを特に気にもせず、ネストルは目の前のモノに気を取られていた。
 話に聞いたことはあるが、実際に実在するとは思っても見なかった。遠い異国の地で、自分ではない自分に生まれ変わるとかという物、名前は確か……ゼーレン何とか。
 どうやら鉄で作られているようだが、手で触ってみたらほのかに暖かかった。形は丸い扉という感じで、枠には見たこともない絵が彫られていた…いや、もしかしたら文字なのかもしれない。
 逃げている最中に、このゼーレン何とかの存在を姫様から知らされた時は耳を疑った。伝説だと思われていた物が実在するだけではなく、この城にあるとは信じられなかった。だが、今それを目の前にして、ネストルは自分の考えを改めなければならなくなった。
 さて、起動させるにはどうしたものか…


「……ダーシャ姫、よろしいですかな?」
 彼女だけと相談がしたい、と呼びかけられた。一瞬だけ迷ったもの、姫はユリウスの手を離し、ネストルのもとに行く。
 儚い背中だと、ユリウスは感じた。
 肌が白く、体も細く、長い髪もプラチナブロンドと、むしろ彼女の全てが儚いのだ。あのような華奢な体に、信じられない力が眠っているとは誰も予想しなかった事だろう。
 しかし、そのせいで彼女は狙われているのだ。
 ずっと蔑ろにされていたのに、酷い仕打ちだとユリウスは悲しんだ。

「それは本当か?」
 突然ネストルが声を上げたせいで、ユリウスはその時の思考を中断してしまう。他の者達も姫と軍師の方を凝視した。
「はい…王家とその側近なら誰でも起動させられます」
 姫のその沈んだ声に誰もが静まり返った中、
「つまり、それを使っても俺たちは完璧に逃げ切れるわけじゃないんだな」と、リアンダーの声がした。
 隊長!と、皆が口々に感嘆の声を上げる。ユリウスも彼が無事な事に喜び近づこうと思ったが、先に姫が駆け寄った。
 そして抱擁する。


 泣き出しそうな姫の髪をなでる隊長。


 その2人の姿が、


 様になっていた、
 悲しいくらいに……










 愛用のノートパソコンに、エイレはここ数時間向かい合っていた。アレックスは自分のを使ってもいいと申し出たのだが、彼女がそれを受け入れなかった理由がわかった。
 タイピングの言語設定。
 日本語はもちろん、ゲルマン諸語、中国語、そしてなんとアラビア語まで入力可能なのである。ポリゴット(多言語話者)であるエイレだからこそ使いこなせるものの、アレックスはそれを考えただけで頭痛がしてくる。
「出来た」
 ソファの背に頭を投げ出すエイレ。
 他の仲間を探したかったらウェブを使ってみては?と提案したニーシャの言うとおりにホームページを作っていたのである。もちろん、王女親衛隊についてのである。今の時代、『王女親衛隊』なんて書くのは恥ずかしいと思いながら、なんかのファンタジーページと間違えられそうだとエイレは心配した。
 とにかく、ページ自体はそんなに時間がかからなかったが、同じ内容をエイレの知っている言語全てに翻訳するのに時間がかかったのだ。
 他の仲間がどこにいるか知らないから、相手が必ずしも英語を読めるとは限らないのだ。確かに翻訳サイトとかはあるものの、何が書かれてあるのか意味不明になる為、それだけは避けたいのだ。
 それに、もし相手が『王女親衛隊』と検索しようとしたら、必ず自分の言語で探すだろう。その時にヒットしなければすぐ諦めてしまう事だってあり得るのだ。
 そうならない為の安全策なのである。
「後は検索サイトに申し出を出したりするだけね…ん、ありがと」
 最後のはアレックスが差し出してくれたココアに対してのお礼。
「……思ったんだけど、出会い系サイトにもプロフィール作った方がいいかな?」
「誰の?」
「……リアンダー?」
 無理があるとアレックスは笑った。


「でも、ニーシャの言っていたことは確かに問題よね」
「金銭面、か…」
 そうなのである。ニーシャは皆を探すのに手伝えないし、ここを離れられないと断ったのだ。
 何故といきり立つアレックスを宥めながら、エイレは何となく理由が分かった気がした。
 ニーシャの家族は幼い兄弟と祖母だけ。祖母が働けないので、何とかお金を稼いで兄弟に義務教育だけは卒業させたいのだが、それでも毎日が苦しいのだ。しかも、早く働かなければならなくなったニーシャは学校を中途退学するはめになり、採用してくれるところの範囲が極端に狭くなったのだ。
 その中で一番多く給料を支払ってくれるのがストリップ劇場だったのである。
 家族のいなかったネストル、だからこそなのかニーシャは家族を大切にしているように感じた。彼女は27年間も一緒だと情が移るからねと冗談交じりに言ってはいたが。
「私も今は大丈夫だけど…いつまでもお金があるわけじゃないしね」
 今は何の音沙汰もないが、敵がいつ出てくるか分からないのだ。敵が来ていない、とは考えない。どんな事をしても、奴等は姫を手に入れたかったのだ。姫を手にいれ、そして元の世界に戻る。
 そうやって襲われた時、エイレ等はお金に気を取られる余裕などない。が、そこが悲しい事実なのだ。
 前は王国に仕えていたので、金銭面だけは心配しなくてもよかったのに、スポンサー無き今、それが最大の問題になってしまった。

「…とにかく、皆を見つける事が先。例え一緒にいれなくても、情報だけでも交換できるからね」
 まるで自分のために明るく振る舞おうとしているように見えて、アレックスは胸が締め付けられるようだった。



 2日後、連絡はあるかとメールをチェックしたら



『新着265通』





「ほとんどスパム……」
 頭を項垂れるエイレ。



 これも、悲しい、現実。




↓あとがき
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テーマ:自作連載小説 - ジャンル:小説・文学

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